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金子 章
(聞き手)秋山 かおる
秋山 こんど金子さんが『はしれ江ノ電 ひかりのなかへ』という絵本をつくられ、新聞などでも紹介されましたが、これは心臓病の少年が昨年の十一月に江ノ電の運転台に立ち、その願いを実らせた直後に亡くなった実話に基づいているわけですね。
秋山 主人公のともくんは難病で、お母さんも亡くしたり、辛い日々が続いたわけですが、それを小学校一、二年生を対象にした絵本にするということでご苦労はありましたか。最後にともくんが亡くなるということも・・・。
金子 取材をはじめて、その後でともくんは亡くなったんですが、いわゆるハッピーエンドにするのではなく、最後の事実の通りに書くことにしたんです。途中でたしかにいろんな辛いことがあったんですが、人間はそういう辛い体験の中で、小さなことにも喜びを見出したり、あるいはこういう人になりたいとか、ここに行きたいとか、そういう願いを強く持つのではないかと思ったんですね。
秋山 はい。
金子 逆にあまりに恵まれた状況に置かれた子には気づかないこともあるかも知れないし、何にでもなれる可能性が広がっていれば、こういう人になりたいという願いが持ちにくいのではないでしょうか。私たちの目から見れば、ともくんの半生は、辛い、ある意味では不幸なものだったかも知れませんが、それが逆に彼の心の中で、「電車の運転手になりたい」という希望をつのらせた。私の想像ですが、これは病気で動けない現実があるから、自由にあちこち行ってみたい、いろんなものを見てみたいという思いが、電車というものに集約したのではないかと思うんです。
秋山 その意味では、病気の現実もふくめて、ありのままに書くことが必要だったわけですね。
金子 そうですね。これは今の社会の中で、子供のいろいろと困難な現実もありますね。そこから目をそらしたくなかったんです。
秋山 ボランティア団体から、ともくんの死を書くことは「子どもたちに失望を与える」と難色を示されたということですが・・・。
金子 お父さんには死を書くことをご理解いただきましたが、たしかにそういう意見が出ました。病気の子どもたちに失望を与えるというのですが、しかし、死があってはじめて生の意味を人間は考えると思いますし、生命には制約がある。そこに信仰の意味も出てくると思いましたので、ボランティア団体にもご理解いただけるように、死をカットしない理由を述べました。それで了解してもらいました。
秋山 死までも書くことで、子どもたちにも死というものがどういうものなのか、そういうことを思い考えるきっかけになりますね。
金子 はい。絵本はどちらかというとハッピーエンドが多いんです。楽しく、夢見るものがたくさん出てきましたが、死というものが絵本のテーマとして取りあげられるようにもなってきているんです。
秋山 レオ・バスカーリア作『葉っぱのフレディ』などもそうですね。
金子 ええ。他にも本年度のボローニア児童賞の特別賞を受けた菊田まりこさんの『いつでも会える』などもそうです。死を見つめるテーマが、子供にも、大人にもたくさん読まれています。
秋山 『はしれ江ノ電 ひかりのなかへ』は絵もとても素晴らしいですね。江ノ電が走るところなどは可愛くて、最後のオレンジ色で描かれている江ノ電が空を飛ぶところは気に入っているんですね。
金子 いまおっしゃった最後の絵ですね。天国へ飛んで行くところですが、絵かきさんもはじめはブルー系で描こうとされていたんです。
秋山 ブルー系が多いですね。
金子 ええ。しかし、最後のところは明るい色調にして下さいとお願いしました。キリスト教の信仰のことはとくに申しませんでしたが、私自身の死についての考え方、信仰から考えるときにむしろ明るくして下さい、絵も明るくして下さいと言いました。
秋山 なるほど。
金子 多くの方に読んでいただきたいという思いもあり、イメージとしては宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』もありました。賢治も聖書を読んでいたと思いますが、あそこにも日輪の光が夜空に差し込んでいるという印象がありますね。
秋山 絵の中でエンピツ書きのところもありますね。
金子 水彩画ですが原色をよく用いる絵かきさんなんです。それで、ときどきあえて、一色、黒のページをはさむことで、逆に前後のページの絵の色が心地よく目に入ってくるという効果をねらっています。
秋山 ああ、そうなんですか。色の効果がかえって増すわけですね。それから私がこの本でいちばん感動したのは、ともくんが亡くなる前の晩に、お父さんに「ぼく、うまれてきて、よかった?」「ひとに、たすけてもらうばかりで、なんにも、してあげられない」と訊ねるところなんです。お父さんは「いいんだよ。ともくんは、ともくんのままでいい」と答えますね。
金子 はい。この世において、目に見えて役にたたないということも、現実にはありうると思うんです。こういう言い方をしていいかわかりませんが・・・。しかし、生きている意味は、どうなのか、という問いが、私自身の中にこの絵本のテーマとして生じたと思うんです。私もそのことを一緒に考えたかった。ともくん自身も、実際にこのようなことを亡くなる前にお父さんに言ったそうです。この答えがむずかしかったんです。最後に書き変えもしたんです。今の私の表現力では、これが精一杯でした。もっと突っ込んでいけば「ありのまま」とはどういうことなのか、いろいろなことが出てくると思います。
秋山 そうですね。
金子 短く短くしてしまうしかなかったんです。自分では七〇点ぐらいなんです。
秋山 私はもっと言っていただきたかったとも思いますが、ここにはメッセージがあると思います。
金子 ここを読んで思いをめぐらしてほしい。子供たちにも考えてほしいと思っています。
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