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びぶろす(02/11)

読書のすすめ

渡部 満

 この欄への執筆を依頼されて、その依頼文に「若い人向けに、その信仰を啓蒙する書物」の紹介を、と言われて、正直少し戸惑いました。信仰の養いになり、また啓蒙的な内容を持った書物に、若い人向きや年輩向きといった区別を考えたことがなかったからです。自分のことを振り返っても、理解の程度はともかく、神学書と言われるものを読むようになったのは一七歳くらいの頃からです。その頃読んだ書物は今のわたしが読み返しても、十分に啓蒙的であり、信仰の理解を深めてくれる書物です。

 そこで、若い人向きとは限定できないけれども、誰が読んでも分かりやすく、また私たちの信仰についてその理解を深め、またよい指針となる書物を書いている人を今回紹介させていただきたいと思いました。その人の名前はアリスター・E・マクグラスと言います。現在、オクスフォード大学の歴史神学の教授です。オクスフォード大学と言えば、すぐお分かりでしょう。この方は、留学中の東野尚志牧師の先生でもあるのです。

 この人の経歴は少し変わっています。一九五三年にアイルランドで生まれましたが、若い頃にマルクス主義の影響を受けました。しかし、オクスフォード大学で勉強している間に、マイケル・グリーンという福音派の神学者の影響でキリスト教に回心します。最初、分子生物学を勉強していたのですが、その分野で博士号を取ると、その後神学の勉強を始め、その成果を次々と矢継ぎ早に著作にまとめ、大小併せてものすごい量の本を書いています。そして今も書きつづけています。現在は、世界でも指導的な神学者の一人とみなされています。この人の書く書物は、非常に啓蒙的な書物から、専門的な学術的な書物まで多岐にわたっています。教会は聖公会に属していますが、福音派と一般的に呼ばれるグループを代表しています。

 わたしもこの方の書物をみな読んだわけではありませんが、入門的な書物や、啓蒙的な書物はとても分かりやすく、しかも正統的で、バランスがとれていると思います。それには理由があると思います。ひとつには、本人が分かりやすく書こうと努力しているからです。英国といえども、一般の人びとのキリスト教についての知識はそれほど正確でもなければ、十分とは言えない時代です。そういう人びとを念頭において、内容が理解できるように書き方に工夫がされています。もう一つの理由は、この人が歴史神学の教授であることがいみじくも語っているように、教理の歴史に詳しいということです。どうして、信仰のこの問題についてこういうことが言われなければならないか、ということを歴史的な背景や経過を明らかにしながら説明してくれるからです。

 日本語に翻訳されている書物はまだそれほど多いわけではありません。啓蒙的な書物では『キリストの死と復活の意味』(いのちのことば社、一九九五年)があります。入門的な書物では、『宗教改革の思想』(教文館、二〇〇〇年)『キリスト教神学入門』(教文館、二〇〇二年)の二つが翻訳されました。また自分の伝記的な叙述を織り混ぜながら、福音派の立場を述べた『キリスト教の将来と福音主義』(いのちのことば社、一九九五年)も日本語で読むことができます。少し専門的な関心になりますが、この方が編集した『現代キリスト教神学思想事典』(新教出版社、二〇〇一年)も出ています。また、ブラーテン/ジェンソン編『聖書を取り戻す』(教文館、一九九八年)にも論文が載っています。残念ながら翻訳はされていませんが、ルターの十字架の神学についての本やカルヴァンの伝記も書いており、プロテスタントの信仰の中心的な教理や霊的生活についても重要な書物を著しています。また、この方の仕事にはカトリックの神学者も注目しています。最近では現代スコットランドを代表する改革派の神学者T・F・トランスの評伝まで書いているのです。その関心の広さ、研究の水準の高さは驚きです。もっと啓蒙的な書物も翻訳されるとよいと思いますが、それはこれからでしょう。

 わたしたちの信仰の筋道をしっかりと整え、理解を深めるためには、正しい教理を学ぶことが不可欠です。また、わたしたちが生きている時代の問題とのかかわりにおいても、その信仰の筋道をわきまえるための学びの努力が大事だと思います。そうしないと、その時々の時代の有力な思想や風潮にかえって影響されて、信仰とそぐわない考えに振り回されることも起こってくるからです。日本の教会では、信徒が神学の書物を一所懸命読んだ時代があったと言われます。最近は、教会においても少し難しい書物を読むことが敬遠されすぎているのではないでしょうか。多少難しくても、中途半端な通俗的書物を読むより、本格的な内容のある書物を読まれることをお勧めします。その点、マクグラスさんの書物は、わかりやすく、信徒が読んでも十分報われる内容です。現代の問題との対決もなされています。是非、年齢にかかわらず読んでみてください。マクグラスさんは、来年五月に東京基督教大学の招きで日本に来られるということです。直接その謦咳に接することができるのも楽しみです。それを機会にまた新しい翻訳書も出されることでしょう。

 こう書いてくると、他にも紹介したい書物もたくさんあります。読書には、習慣という側面もあります。充実した図書室もあります。これは宝の山です。加藤常昭先生の説教集をはじめ、すぐれた信仰の読み物が棚にぎっしりと詰まっています。普段から、信仰の訓練のためにも是非この宝を無駄にしないで活用していただきたいと思います。こういうことについてどういう書物を読んだらよいか、という質問があったらいつでもお尋ねください。


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